>>Q&A
2、ポーズの行い方の問題
ヨーガアサナの多くは、ゆっくりと動き、ポーズの完成に至ったら、その位置でキープするよう教示されているはずです。
この理由は、先人達が経験的に軟部組織(特に筋肉)の特性に焦点を当てていたためではないかと推測されます。
筋肉はゆっくりと伸ばすことで伸びに対する抵抗が軽減され、伸ばした状態を適度な時間キープすることで、その効果が増大するからです。
ところが逆に、靭帯(関節をつくる骨同士を直接的につなぎとめる役目を担う軟部組織)にとっては、このゆっくり伸ばして維持するが命取りとなるのです。
筋肉をゆっくり伸ばして長く維持しておくと、ほんらい関節を適度に引き締める役目を担う靭帯までもが引き伸され過ぎてしまいます。そうすると、靭帯の可逆性は失われていき、最後には二度ともとの状態には戻れなくなってしまいます。ちょうど透明のビニール袋が過剰に引き延ばされて、元の透明の状態には戻れない状態と似ています。
そうなると、それまで靭帯によって守られていた関節に異常なタワミが生じてしまい、タガがゆるんだ桶状態となるのです。
このような害を、サイレントスプレインと呼んでいます。サイレントスプレインとは"静かなるねん挫"という意味です。
サイレントスプレインが一旦生じてしまうと、靭帯はもう元にはもどれません。該当する靭帯の周辺の筋肉を鍛えないかぎり、正常な関節の機能を回復することが困難となってしまうのです。
もし仮に、このような状態が体のあちこちに生じてしまうとどうなるのでしょう。
体が柔軟になりはするものの、アスリートのように筋力を鍛えていない高齢者や女性方は、体重をささえるという機能が簡単に損なわれ、関節を構成する骨そのものに過剰な負担をかけてしまうことになるのです。
くわえて、とくに女性は注意が必要です。女性は男性に比較して靭帯が柔らかくなるしくみをもっているのです。
出産を前提とした女性の体は、毎月一度来る生理前に女性ホルモンの一種であるRelaxin(リラキシン)*2を分泌し、骨盤や股関節周辺の靭帯や筋肉を中心とした全身の軟部組織を柔らかくしていることが知られています。
出産の時に産道を大きく開かなければならないために、そのシュミレーションが繰り返されているのです。
実際に妊娠すると、受精後3〜4カ月頃から産後の数日間、このホルモンが分泌され続けるといわれます。
ですから、女性であればだれでも、生理前にポーズを行うことで、男性に比較していち早く難度の高いさまざまなヨーガのポーズができるようになるわけです。
ところが先の生理的な仕組みに気づかないままに、多くの女性方が柔軟になった自分の体を喜ばれ、「自分はヨーガに向いているのではないだろうか」と考える傾向が強いようです。そして、そのような方々の中から、何人もの方々がヨーガの指導者になっておられるようです。
最近の事情は存じませんが、少し以前までは、インド本国においてはヨーガの指導者は圧倒的に男性が多く、インド以外の国々は、逆に女性の指導者が圧倒的に多かったのは、このような事情が強く関係していたからであろうことが推測されます。またインドに限らず古代社会の男尊女卑の歴史が少なからず関係しているのかもしれません。
何年か前に、インド本国において体育教師になるには、男女に関わらずヨーガを学ばなければならなくなったと聞いております。ですから、事情は少々変化しているものと思われますが・・・。
*2 :リラキシン
このホルモンを医薬的に利用したものが筋弛緩剤
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